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生活チープサイド

豊かな死

日曜は、往診の先生の二度目の訪問。
前回は私も姉もいなかったので、母と3人そろったところで丸山ワクチンの自己注射のレクチャーを受ける。

丸山ワクチンとは、30年以上前から治験されているワクチンだ。
治験とは、正式な薬として認可される前、患者了承の上で患者にテストすることだ。
本来は無償だが、丸山ワクチンの場合は有償治験薬なので患者側がワクチンを購入し、何らかの方法で注射し、成果を報告するやり方となっている。
注射は医療行為なので、本当は病院でするのだが、1日おきに注射しなければならないので、糖尿病の人がインシュリンを自己注射するように、丸山ワクチンも自分で注射する人が多い。

注射器やワクチンの取り扱いについて、消毒や注射の仕方について、また医療廃棄物となる使用済みの注射器などの扱いについて先生から教わる。
日曜は本当は休診なのに、先生は1時間半もいてくれて、薬や今後のことについて相談にのってくれた。

今の母の主治医は都心の大病院なのだけれど、大病院はやはり薬の処方についてはきめ細かくない。
母が便秘だというと、言われるがままに下剤を大量に処方する。
膀胱炎のような頻尿だというと、泌尿器科にたらい回しにされ、がんとは無関係の漢方薬を大量処方される。
大病院は分野が科ごとに分かれて専門的に診てもらえるのが強みだが、末期がんともなると総合的に不調が現れるので、他科との連携がうまくとれていない場合はとても効率が悪いと思う。
治る病気ならともかく、もう治らないのだから、都心の雑踏に揉まれたり、何時間も待合室で待ったりすることは、残り少ない母の命をすりへらしてしまうように感じる。

だから、今後は抗がん剤や黄疸の処置などは都心の大病院で、痛みや体の不調全般は、すべて往診の先生に診てもらう、ということにした。
往診の先生は、これまでホスピス医として、末期がんの患者を数え切れないほど看取ってきた方だ。
だから、末期の患者がどんな苦痛を訴えるか、そしてその緩和はどうすればいいかよく知っている。

難しい医療のことは私たちにはわからないから、日本でおそらくいちばん有能な、そして何より人間的にも素晴らしい先生に診ていただけるようになったことはとてもよかった。
引越をしたのも、この先生に診てもらうためだったので、先生が緩和ケアを引き受けてくれて、ほんとうにほんとうによかった!

しかし、母はいい。
こうして名医中の名医に診てもらうことができる。
もちろんそれは母自身と私たち家族が必死にあがき、体力も精神力もお金も使い果たして得たものだけれど、それがどうしてもできない人もたくさんいるだろう。

私は母が末期がんとわかって初めて、がんという病気の恐ろしさと、末期治療の実際について知った。
がんの痛みは、現代ではほぼ薬で解決することができるという。
だから、ひと昔前のように、患者ががんの痛みに転げ回って死ぬことはなくなったはずだ。

しかし、まだ地域によっては疼痛コントロールのやり方が浸透していなかったりして、痛みに苦しみぬいて死ぬ人がいる。
また、「緩和ケア」という考え方も私は今回初めて知ったのだが、痛みや辛い症状を「治療」するのではなく「緩和」するこの医療もまた、地方ではあまり浸透していないという。

母は不幸だ。
もちろん不幸だが、もしも私たちがそういう知識を得ることができていなかったらと思うとぞっとする。
そして、この日本で、今母と同じように重い病気になってしまった人、大切な人が病気になって途方にくれる人がまだまだたくさんいるのだと思う。
そういう人が一人でも少なくなればいい。
どんな病院でも、どんな医者にかかっても、尊厳ある人として扱われるように。
「泣きながら産まれ泣きながら死んでいく」なんて悲しい考え方ではなくて、微笑みながら、まるで実りのような、豊かな死を迎えられるようになればいい。
by sima-r | 2008-05-12 22:33 | Mother
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