不幸の刺客
図書館へ行くバスを待っていたら、自転車を引いて歩きながら、携帯で話している男の人がいた。
「それは精密検査を受けた方がいいよ」という言葉が耳について、今そういう言葉に敏感になっている私は耳をそばだてた。 相手に応えてその人は言う。 「すい臓がそんな痛むわけないから」 私はぎょっとした。 思わず顔を見た。 眉をひそめて心配そうな、なだめるような顔のその人。 私の凝視にも気付かず、40歳くらいのその人は通りすぎた。 私はその背中を見送りながら、走っていってその人の肩を揺すぶりたかった。 一刻も早く、一秒でも早く検査した方がいいですよって。 小さな病院じゃなく、できれば大きな病院で。 内科ではなくて消化器科がいいですよって。 CTを必ず受けて、腫瘍マーカーを見てもらって。 すい臓がんは本当に見つけにくいから。 ほんとうに怖い病気だから。 不幸の刺客はこうやって、日常に突然忍び寄るのだ。 こんな、なまあたたかい、雨の降りそうなありふれた日に。 普通の顔でやってきて、翌日から人の人生を変えてしまうのだ。 通りすがりのあの人の電話の相手が、どうか怖い病気ではありませんように。 不幸なんて、少ない方がいい。 どんなに薄い縁でもそう祈ってしまうくらい、私はいま不幸が憎らしい。
by sima-r
| 2008-05-05 15:45
| Mother
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るい 33歳女子。
<家族> 夫 (スペハズ) 息子(ピースケ) 猫 (おひげ) 今日のピースケ
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