生活チープサイド

三十一文字の魔法

夫の実家に行ってきました。

入院中の夫の祖母のお見舞いに行ったときのこと。
百人一首が好きだったという祖母に、夫と二人で祖母の耳元で百人一首を読み上げた。
かつては97首まで暗記したものの今はすっかり忘れてしまっている私と、あまり百人一首をやってこなかった夫の二人なので、たどたどしく、でも何首も。
そうしたら、それまで声をかけても体をさすっても、看護士さんに口の中をガーゼでぐいぐいとぬぐわれても反応がなかった祖母が、ぱっちりと目を開けたのだ。
口も、もぐもぐと動いて、何か言いたそうにして、少し笑っていたようだった。

ずっとベッドの上で夢うつつのようにいても、楽しかった記憶とか、体にしみこんだリズムはちゃんとわかるのだなと思った。
普段使う記憶の領域がだんだん曖昧になってきてしまっても、その部分はちゃんと損なわれずにいるのだなとも。
「みそひともじ」のリズムの持つ力は、好きだったものの力は、こんなにも強い。

昔、私は短歌を書いていた。
大学のゼミで与えられた課題がきっかけで、最初はコツがわからず言葉をいじくりまわすだけだったのだけれど、突然、堰を切ったように書けるようになった。
世の中のすべてが、たったの三十一文字で表せることに気づくと、書いても書いても言葉は三十一文字のリズムで押し寄せてくるのだった。
あのときの、突然もうひとつの言語をすらすらと使えるようになったような感覚は、今でも忘れることができない。
ヘレン・ケラーが言葉を得たような、白黒だった世界が突然カラーになったような、世界がまったく違って見えたような感覚だった。

夫に、自分が寝たきりになったら私にも百人一首を読んでねと言ったら、「俺のときは奥の細道を読んでね」と言われた。
ほかにも、「春樹を読もうか」とか「アムリタを読んであげるよ」と話したけれど、やっぱり、昏睡から目覚めるのには「みそひともじ」な気がする。
たとえ眠っていても、なつかしいリズムが聞こえたら、きっと目が覚める。
何があろうと、「まつとしきかば今帰りこむ」だろう。

そんなことを考えた。
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by sima-r | 2007-08-14 17:49 | Days
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